トンデモ?微妙な学説

 明確に反論できないんですけど、絶対そうだとも言い切れない。微妙…。

トンデモ科学の見破りかた:もしかしたら本当かもしれない9つの奇説
 トンデモ科学の見破りかた:もしかしたら本当かもしれない9つの奇説
 ロバート・アーリック 著 垂水 雄二・阪本 芳久 訳 草思社刊
 原題「Nine crazy ideas in science」
 2004年2月20日第1刷
 2004年3月5日第2刷
 ISBN4-7942-1282-8

 これまた、日本語のタイトルがトンデモです。
 副題の方が原題に忠実ですので、こちらが本当の本のタイトルにしてほしいものです。
 序章以降の9章を費やして9つの「とんでもない!」と思われるような考えを科学的に検証してみて、ほんとうにトンでもないアイデアであって再考の余地もないほどもものなのかを考察します。
 取り上げられた9つの学説(カッコ内は著者の判定によるトンデモ度)とは…
1)銃を普及させれは犯罪は減る(3)
2)エイズの原因はHIVというのは嘘(3)
3)紫外線は体にいいことのほうが多い(0)
4)放射線も微量なら浴びた方がいい(1)
5)太陽系にはもうひとつ遠くに太陽がある(2)
6)石油、石炭、天然ガスは生物起源ではない(0)
7)未来へも過去へも時間旅行は可能である(1)
8)光より早い粒子「タキオン」は存在する(0)
9)「宇宙の始まりはビッグバン」は間違い(3)
 なかなか微妙な学説を取り上げてあるところも微妙です(笑)。
1)の学説が最初に取り上げられる点は著者が米国在住であるという特徴を表していると言えます。
 昨今の某テレビ番組の捏造ではありませんが、科学の衣をまとった嘘、すなわち疑似科学との境界線がはっきりと示されていない点は気になりますが楽しく読ませていただきました。
 著者は当該学説がクレージーな度合い(訳文ではトンデモ度)を0から4までの5段階評価をそれぞれ行っていますが、意外とトンデモ度4は無い事と、トンデモ度0も複数含まれているのが残念です。
 トンデモ度0は「信用しても良い」ではなく、「そうであってもおかしくない」であり、トンデモ度4は「まったくもって信用してはならない」でははく「明らかな誤り」という判断基準からすると著者の主張はそれなりに妥当な判断かと見えます。もちろん著者の研究対象である8)については甘いのではないかという疑念もありますが、総じてかなり客観的だと思えます。
 もちろん9)の学説の参照にすら上がっていない創造説による宇宙の歴史は完全に除外しているというと点は客観的な著者の立場を示しているといえるでしょう。
 訳文を担当した方の違いと思われますが訳語に特徴があり、違和感を覚える章があります。
 気になった訳文中の単語を列記してみます(カッコ内は私の主観的訳語)と
「メリー・ゴーラウント(メリーゴーランド)」
「スティーヴン・ホーキング(スティーブン・ホーキング)」
「ルクソン(ルクシオン)」
「ターディオン(タージオン)」
「ジュウテリウム(デューテリウム):重水素」
 やや微妙な訳語が目に付きましたが、訳者の好みの問題でしょう。
 取り上げられている内容が意外と「う~ん」と唸りそうな学説であるのも確かですが、関連文献などを豊富に参照してあくまでも客観的立場により検証を行う著者の執念ともいえる態度には頭の下がる思いです。
 「トンデモ科学」で検索対象となったものの「トンデモ本」では無い点はうれしくアリ、寂しくもアリです。
 しかしながら正しい科学知識と態度を身につけるためには良い実例を示した少ない本といえます。