夏はロケット

 宇宙ものというかライトノベルというか。
ほうかごのロケッティア
 大樹連司著 小学館刊 GAGAGA文庫
 ほうかごのロケッティア
 SCHOOL ESCAPE VELOCITY
 2009年12月23日 初版第1刷発行
 ISBN978-4-09-451178-9

 まず、ライトノベルです。あまり細かい事は気にしないで読みます。
 本人が言及していますが、以前に紹介した川端裕人の「夏のロケット」、あさりよしとお(浅利義遠)の「なつのロケット」、のほかにも野尻抱介の「ロケットガール」やGAINAX「王立宇宙軍 オネアミスの翼」を下敷きにして描かれた世界観、ストーリーとなっています。
 副題は脱出速度「escape velocity」に掛けて、学校脱出速度とということでしょうか。
 本編は好き嫌いが分かれると思いますが、ライトノベルで青少年向けということもあり、厨二病的な台詞回しが多数使われています。大体ヒロインがツンデレですし。
 「腐女子」「リア充」「電波」とか、もろ「厨二」という言葉も使われます。2ちゃんねるファンでしょうか(笑)。
 ロケットはモデルロケットからスタートする正攻法ですが、大型化するのに伴いコンポジット燃料を使ったものになるあたりは夏のロケットと同じ。実際に軌道投入を行うロケットについては多段となりますが、なんとハイブリッド燃料のロケットになります。で、現状のハイブリッド燃料ロケットの成績としてははなはだ良くないのですが、そこはフィクションで(秘密の)特殊な触媒を導入することにより成功へと導かれます。このあたりはハッピーエンドへ向かうための隠し味でしょう。
 残念な点が二つ。
 ロケットにかかわった人間としては負の歴史とも言える人間ロケットミサイルである「桜花」が登場すること。戦争の一ページとしてのみ描かれて、ロケット開発者としてはやってはいけないことに手を出したという悔恨の印象が薄いのです(もちろん桜花は当時の軍部が主導したのですが)。エピソード中の桜花に搭乗して亡くなられたという人物がロケット開発をしていた人間であるという点を除いたとしても、ロケット技術者のタブーに触れたという文章ではありません。
 もうひとつは、主人公がオタクとしてバレることでクラスメイトから相当にいじめられる描写があります。「いじめ」は単なる人間関係の歪ではありません。万引きを窃盗と呼ぶように、いじめは器物損壊を始めとしてはっきりとした犯罪行為であり、許されないものです。その点について、いじめる側の立場から見た論理が広げられ、いじめる側のいじめる行為に対する処罰やその責任を取らされるシーンが全く無く、いじめ行為はいじめれる側に理由があるかのごとく描かれた部分が大変残念でした。
 作者の年齢もあるのでしょうが、若い人から見た世界がそうなのかと思わせられます。
 総じて軽い文体、学生同士の会話主体の文章ということもあり、一気に通読しました。
 エンタテイメントとして十分楽しめましたが、いまいち後味の悪い部分が残ったのが残念です。
 参考文献がなかなか面白いのも、面白い点でしょうか。

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